ちょっといい話

第28回

法科大学院雑感


2015年3月末をもって、中京大学法科大学院を退任することになりました。丁度8年間、弁護士業の傍ら、教授職を勤めたことになります。この間、一緒に学んだ学生諸君、お世話になった教職員各位に対して感謝の気持ちで一杯です。

法科大学院は、2004年にスタートしました。それまでは、法曹(裁判官、検察官、弁護士)をめざす者の多くは、大学に籍だけ置き、もっぱら予備校へ通って勉強していました。大学の法学部は、企業や役所等への就職を予定している学生が大半であり、法曹をめざす者にとっては教育内容が十分とは言えませんでしたし、教員も独自の説を講義しておれば済んでいました。総じて大学法学部は、司法試験には役立たないと考えられていました。そこで予備校通いとなったわけですが、予備校は「論点の暗記」が中心であり、受験には役立つとしても良質の法曹を養成するという視点からすれば、決してよい「教育機関」とは言えませんでした。このような無味乾燥と言わざるを得ない受験生活を送り、27,8才になってようやく合格(合格率は2~3%)するというのが平均像だったのです。

法科大学院は、法曹をめざす者が学び、「理論と実務をつなぐ教育」をするためものとして設置されました。要するに、医学部のような教育機関を想定したと言えます。
実際、法科大学院では、学生は全員「法曹をめざす」という目標が明確であり、実に熱心に勉強していました。法科大学院では、教員の一定割合が現職の法曹ですが、学者の教員も常に実務(臨床)を意識して教えるようにしていました。全体として、暗記ではなく、解決能力がつくように、できるだけ「考えさせる教育」をめざしていたと思います。また、法曹の卵にとって大変重要な「法曹倫理」(私も担当していました)を体系的に教えるようになったのも、法科大学院が初めてです。
法科大学院がめざしたものは、決して間違っていなかったというのが私の実感です。

しかし、法科大学院は、今苦境にあります。法科大学院を出ても合格率は低く、志願者も減り続けています。最近では、法科大学院を経ないで受験する「バイパス」(予備試験)が幅をきかせつつあります。法科大学院が今後どのようになっていくかは分かりませんが、おそらくまだ数年はかかるでしょう。しかし、以前に後戻りすることはできません。
法曹は社会で重要な役割を果たす人的資源です。どのようにしてどの程度の数を養成するかは、国の重要な政策のはずです。大学間の競争原理にまかせておいてよいというものではありません。医学部、医科大学の配置がそうであるように、法科大学院についても、全国的な配慮と中長期的視野に立った真剣な政策的検討が今こそ必要だと思います。

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