ちょっといい話

第9回

嬉しい「後輩」からの手紙


それは、東京の住所で、「突然のお手紙失礼します。」から始まる知らない女性からの手紙でした。昨年秋のことです。

続いて「私は、この度平成23年度新司法試験に合格しました、○○と申します。」とあり、私は、てっきり早々と「就活」の手紙かと思いました。

司法改革の一環として法曹人口を増やすということで司法試験合格者が急激に増やされました。法化社会(古い因習や権力に支配されるのではなく、あまねく法的な解決がなされる社会。それは弱者の権利が守られるということにつながる。)を目指すには確かに法曹人口は増やさねばなりませんでした。しかし、多くの市民が法的サービスを利用しやすい制度の拡充(例えば、費用の心配なく利用できる法律扶助の拡充や、弁護士が事務所での弁護活動だけでなく行政や企業等いろんな分野で活動できる社会の仕組み)のスピードは極めて遅く、弁護士の需要があまり顕在化していないのが現状なのです。

その一方で、あまりに速い司法試験合格者の増加により弁護士になろうとする者が急増し(裁判官や検察官は増やさないので弁護士になる者の数ばかり増えている)、彼らの弁護士事務所就職が非常に困難になっているのです。司法試験に合格し司法修習を経ても、弁護士事務所で指導を受けながら勉強して始めて一人前の弁護士になっていくのに、弁護士事務所に就職できない人も出てきているのです。

ですから、早々と今から就活のために面談申込みの手紙かと思ったのです。

でも、それは違っていました。

手紙は「山田先生に一言、合格の報告とお礼を申し上げたくて、このような手紙を差し上げました。」と続いていたのです。

でも、いくら名前を見ても、私には思い当たることがありません。法学部や法科大学院の教育にも関係してこなかったし、一体、誰?

?

「私は15年前の1996年、名古屋市の○○高校1年生の時に、山田先生にお目にかかりました。

 夏休みの自由研究の課題として、当時厳罰化が唱えられていた少年法に興味を持ち、テーマとして選んだのがきっかけでした。

 名古屋弁護士会(現愛知県弁護士会)に電話をして、少年法について調べたいとお願いすると、山田先生をご紹介されました。

 そして、興味を持ったといって何の知識もない私に、山田先生は快くお時間を下さり、丁寧に少年法の仕組みや先生としてのお考え、これまでのご経験などを話してくださいました。

 先生のお人柄やお話に心から感激した私は、以来、いつか先生のような弁護士になりたいという夢を持つようになり、尊敬する憧れの先生として常に考えておりました。

 2005年に○○大学法学部を卒業した後、司法制度改革の混乱期であったこともあり一度は別の世界で働いたりもしましたが、やはり憧れの世界があきらめられず、2008年に○○のロースクール(法科大学院)に進学し、今年(2011年)の春に卒業して新司法試験に挑戦し、何とか合格することができました。

 15年という長い年月がかかりましたが、ようやく今憧れの山田先生と同じ世界の入口に立てたことを何よりもまず報告させていただきたく、筆をとりました。

 法曹を目指す原点となった先生からのお話を常に忘れず、これから先生のようになれるよう、少しでも近づけるように勉強と努力を重ねてまいりたいと思います。

 いつの日か、先生にお会いし、ごあいさつができることを夢に見、楽しみにしております。

 突然のお手紙、失礼しました。

 お体に気をつけて、これからもご活躍されることを祈っております。?????????????????????????????????? ?」

 

 私の脳裏にその時の少女のまだあどけないでも一言も聞き漏らなさいという熱い視線が確かに浮かんできました。

 そして、少年事件・少年法に対する当時の私の熱い思いもそれと重なって思い出されました。

 私は、これまで、弁護士の仕事を天職と思って力いっぱいやってきたけれど、だんだん体力が落ちてきて意識しないと多分気力までが少しずつ落ちてきそうな不安を感じていた時だけに、あなたの手紙に力が湧いてきました。○○さん、本当にありがとう。

 私にとっては、この手紙のことは「ちょっといい話」ではありません。「とてもいい話」で、この手紙は私の「宝」です。

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