ちょっといい話

第6回

ある少年との出会い


 私は、弁護士となってしばらくした頃、付添人(成人事件における弁護人のような存在)として1人の少年と出会いました。

 少年には、非行歴が多数あって、すでに少年院などへの入所歴も複数ありました。しかも、私が担当することになった事件は、別の事件での試験観察期間(最終的な処分を下す前の様子を見るための期間)中に起こした少年同士の暴行・傷害事件でした。裁判所の審判(成人でいう判決のようなもの)では厳しい判断がくだされることが予想されました。

 少年は、事件を起こしてしまったことは素直に認めて反省しており、事件後に働き始めた職場に恵まれたようであり、「上司との出会いから、真面目に働くことや人との関わりの大切さを学んだので、少年院には入りたくない、今の職場に残りたい。」と強く求めていました。

 私は、何度も少年と面会し、少年を担当する家庭裁判所調査官とも面談を重ね、少年の両親や勤務先の上司・雇用主の協力も得て、審判に臨みました。しかし、結果は少年を少年院に収容するというものでした。

 私は、少年が審判を言い渡された際に呆然としており、ひどく落ち込んでいたことから、すぐに少年と面会しました。少年は、「もう自分の人生は終わった。あの職場にはもう戻れない。まともな職に就けずに少年院や刑務所に行くことを繰り返すしかない。」と悲観的な発言を繰り返しました。私は、気持ちさえしっかりしていればいくらでもやり直しがきくこと、失敗は誰にでもあるから、大事なことは失敗を次に活かしていくことだと話しました。上の空の少年には、私の言葉は届いていないようでした。

 その後、私は、少年の様子が気になっていたので、少年院に入所している少年に会いに行きました。少年院へ向かう途中、私は少年が自暴自棄になっているのではないかと不安に思い、どのような言葉をかけたらよいか考えていました。

 ところが、少年院で私と面会した少年は、私の顔を見るなりどこか吹っ切れたような爽やかな笑顔を見せ、「前回、先生がかけてくれた言葉で投げやりになることを思いとどまることができました。言葉をかけてもらえなかったら、暴れて自暴自棄になっていた。希望通りの審判にはならなかったけど、これでよかったのだと思います。事件を起こしたことは悪いことだし反省しているけど、事件がなかったら先生には会えなかった。今まで何人かの弁護士の先生と会ったけど、俺は今回の事件で先生に会えてよかった。」と言ってくれました。

 私は、少年を励まそうと思っていたのですが、結果的には少年の言葉に励まされてしまい、不覚にも泣きそうになっていました。この少年の事件を担当していた時期は、少年事件が手続の期間が短いことから対応に右往左往し、他にも大きな刑事事件を抱えていたことから、精神的にも肉体的にもあまり余裕がない状態でした。そんな中、少年との面会は、意見をぶつけ合って議論となることもあったので面会時間が2時間を超えることも多々ありました。

 時間をかけても審判の見通しは厳しく、現に厳しい審判がくだったことから、効率を考えると自分のやったことが正しいのか迷うこともありました。本来、私のような若輩者がやってはならないことですが、日々の仕事をしていく中で、効率や合理性を考えてしまい『これくらいでいいのではないか』と手抜きをしようとする自分がいました。

 そんな私に、少年の言葉は、自分のやったことは間違ってなかったこと、これからも自分の仕事に誇りを持って1つ1つを恥ずかしくないように全力を尽くさなければならないことを再認識させてくれました。

 審判から3年が経過しましたが、その少年は、審判から1年後には少年院を出て真面目に働いており、私が大阪から名古屋に移った今でも定期的に連絡をしてきてくれます。

 少年による凶悪犯罪が多発しているとして厳罰化すべきとの議論もありますが、少年は、どの子も更生する可能性を大いに秘めています。私が、その可能性を引き出せたのだとは言えませんが、私は少年と真っ正面から向き合ったことで、少年に立ち直りのきっかけを与えられたのではないかと思います。そして、私は、少年からは、私が与えることができたきっかけより遙かに大きいもの原稿をもらえました。

 私は、この少年との出会い・経験を活かし、これからも、少年事件だけでなく、いろいろな事件に熱意を持って向き合っていきたいと思っています。

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